扱う病気について

【悪性中皮腫について】

●悪性胸膜中皮腫に対するREIC遺伝子治療について

REIC遺伝子発現アデノウイルスベクターを用いた遺伝子治療は、癌細胞だけを選択的に死滅させる作用と宿主の抗腫瘍免疫を増強させる作用が同時に期待できる新しい治療法です。

Reduced Expression in Immortalized Cells/Dickkopf-3(REIC/Dkk-3)遺伝子は2000年に岡山大学で発見された新しい癌抑制遺伝子です。REIC遺伝子は正常な細胞では普通に発現していますが、種々の癌細胞でその発現が低下しており、これらの癌細胞にREIC遺伝子を発現させると、癌細胞選択的にアポトーシス(死滅)が誘導されました。
動物実験において、様々な癌腫で、REIC遺伝子を発現させることにより、
(1) 遺伝子を投与した局所における癌細胞選択的なアポトーシス誘導が確認されるとともに、
(2) 全身における腫瘍免疫の増強効果(抗がん免疫の活性化)も確認されました。
また、治療実験および安全性実験などの動物実験においては、問題となるような有害事象は発生していません。我々は、悪性胸膜中皮腫においても、動物実験でREIC遺伝子治療による抗腫瘍効果を確認しております。

これらの基礎研究結果をふまえ、岡山大学病院では、前立腺癌に対して、REIC遺伝子治療臨床研究を平成23年1月25日に、第一例目の患者様に対して治療を開始し、平成26年5月現在までに23名の患者様に治療を実施し、安全性と有効性が確認されつつあります。

●治験製品(Ad-SGE-REIC)について

新規遺伝子治療製品であるAd-SGE-REICは、「新規がん抑制遺伝子REIC/Dkk-3 (Reduced Expression in Immortalized Cells/Dickkopf-3) を組み込んだ、非増殖性遺伝子組換え5型ヒトアデノウイルス(以下、Ad-REIC製剤といいます)」です。 REIC/Dkk-3遺伝子強制発現により、「がん細胞選択的アポトーシス」「抗がん免疫の活性化」が誘導され、局所がん原発病巣だけでなく、遠隔がん転移病巣に対しても抗腫瘍効果を示すことが期待されます。

●REICによる「がん細胞選択的アポトーシス」

REICタンパク質は、正常細胞では一様に強く発現していますが、悪性胸膜中皮腫を含むヒトの様々ながん細胞中で、発現が抑制されています1)-4)。培養細胞やマウスモデルでの実験から、がん細胞にREICを強制発現させると、REICタンパク質は小胞体で過剰につくられ、小胞体ストレスによるc-Jun-NH2キナーゼのリン酸化を介したアポトーシスを起こすことが確認されました。一方で、正常細胞ではアポトーシスを誘導しませんでした1), 5)-6)。

●REICによる「抗がん免疫の活性化」

分泌されたREICタンパク質は、単球を樹状細胞様に分化誘導するなどの抗腫瘍免疫活性化能を有しています7)。また、アポトーシスによりがん抗原が放出されることでも、樹状細胞及び細胞傷害性T細胞の活性化が期待されます。一方、正常細胞ではREICによる小胞体ストレスによりIL-7が過剰産生され、NK細胞を活性化します8)。このように、REICは二重の抗がん免疫活性化能を発揮することが分かりました。

悪性胸膜中皮腫を対象としたAd-SGE-REICの開発は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)における産学共同実用化開発事業(NexTEP)に採択され、岡山大学と杏林製薬株式会社が産学で連携し、国内オリジナルでの実用化に向けた開発を進めています。 本治験では、標準的治療法が無効又は適切な治療法のない悪性胸膜中皮腫患者を対象として、胸腔内投与におけるAd-SGE-REICの安全性と有効性を確認することが目的です。 Ad-SGE-REIC(第二世代のAd-REIC製剤*注)の悪性胸膜中皮腫患者への投与は初となりますが、海外では限局性前立腺がん患者を対象とした第I/IIa相臨床試験が実施され、腫瘍内投与(1サイクルあたりの投与量は国内治験と同量(最大で3.0×1012vp)であり、それを6週間隔で4サイクル行いますが、確認されている副作用としては一過性の発熱が主であり、高い安全性が示唆されています。 なお、第一世代のAd-REIC製剤については岡山大学における臨床研究にて、悪性胸膜中皮腫患者へ胸腔内投与が行われ、安全性が確認されております。前立腺がん患者(去勢抵抗性再燃前立腺がんの非転移症例および転移症例に対する治療、ハイリスク初発限局性前立腺がんに対する術前ネオアジュバント療法)への腫瘍内投与からは、安全性と有効性が確認されています9)。重篤な有害事象による中止や死亡例は認められておりません。高用量で最も頻度の高い副作用は、軽度から中等度の発熱及びインフルエンザ様症状ですが、薬物投与により容易にコントロールされました。薬力学的評価では、PSAの低下または維持が認められ、かつ摘出された組織の病理から前立腺腫瘍細胞への選択的かつ限局的なアポトーシス、遠隔転移巣に対する間接的効果、用量依存性の再発抑制効果が確認されました。

*注):本治験で用いるAd-SGE-REICは、第一世代のAd-REIC製剤からREICタンパクの発現を増強するSGE (super gene expression)システム(hTERT、SV40、CMVのエンハンサー群)を導入しており、10倍以上の効果が期待されます10)。胸膜腔内へ投与することで、細胞への効率的なアデノウイルス感染を促し、「がん細胞選択的アポトーシス」と「抗がん免疫の活性化」をよりいっそう発揮できることが期待されます。
1) Cancer Res 2008; 68:8333-41. 2) Biochem Biophys Res Commun. 2001; 289: 257-63. 3) Int J Oncol. 2001; 19: 117-21. 4) J Urol. 2004; 171: 1314-8. 5) Cancer Res. 2005; 65: 9617-22. 6) Int J Mol Med. 2007; 19: 363-8. 7) Int J Oncol. 2009; 34: 657-63. 8) J Biol Chem. 2009; 284: 14236-44. 9) Clin Med Insights Oncol. 2015; 23: 31-8. 10)Oncol Rep.2014; 31; 1089-95.

当院では、悪性胸膜中皮腫に対する治験*に参加いただける方を募集しています。
この治験では、新しい遺伝子治療の安全性と有効性を評価します。

 (*治験とは薬や治療製品の候補品について、効果や安全性を評価する臨床試験のことです。)

<治験に参加いただける方>
・悪性胸膜中皮腫と診断されている方
・決められた入院が可能な方
・治験に定めた選択/除外基準を満たす方 …など
<募集期間>
2015年9月〜2017年12月
(定員に達し次第募集を締め切らせていただきます。)

★患者様のプライバシーは守られます。
★上記以外にも、いくつか参加基準がございます。
 参加基準に合致しない場合は治験に参加いただけないことがありますので、予めご了承ください。

詳しくは下記までお問い合わせください。

実施診療科 :呼吸器外科
治験担当医師:豊岡 伸一

<お問い合わせ先>
岡山大学病院
新医療研究開発センター 治験推進部
TEL:086-235-7991(平日 8:30〜17:00受付)