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岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科

岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 呼吸器・乳腺内分泌外科(第二外科)

扱う病気について


MEDICAL ROPORTS
トップページ 乳腺・内分泌グループ 扱う病気について 乳癌(にゅうがん)の診断・治療

乳腺・内分泌グループ

乳癌(にゅうがん)の診断・治療

 乳がんは主に乳房の中にある乳汁(ミルク)の通り道である乳管や小葉と呼ばれる乳汁を産生する部位にできます。年齢別の罹患率(乳がんになる確率)は30歳代から増加し40歳代後半でピークとなります。その後やや減少しますが、高齢になっても罹患する可能性は比較的高いです。
 乳がんは他の癌同様に病状の進行の程度により4段階に分類されており、これを病期(ステージ)と呼びます。後に述べる診断や治療はこの病期にあった方法が選ばれます。また、予後(治療開始後10年の生存率や再発率など)もこういった病期により予想され、進行すればするほど病期は高くなり予後も悪くなります。
 乳がんの診断・治療はおおむね乳癌学会により推奨されるガイドラインにのっとって、学会が認定する専門医により行われることが望まれております。当科においても、複数の乳腺専門医と専門スタッフがチームとなってガイドラインによる治療はもちろん、さらに最先端の診断・治療を行っておりますのでその一部をご紹介いたします。

当科における乳腺・甲状腺の手術件数 治療開始からの生存期間

診断


マンモグラフィー、超音波(エコー)検査

 一般的な乳がん検診のための検査です。(マンモグラフィ精度管理中央委員会が認定したマンモグラフィー読影資格を持った医師が診断いたします)

MRマンモグラフィ および MDCT 検査

レントゲン写真

 乳房のしこりが癌かどうかを判定するだけでなく、癌であった場合、病変がどの程度広がっているかを診断します。
 一般のMRIやCTとは異なり、特別なコイル(撮影装置)を使ったり、細かいスライスで撮影を行うことでより正確な診断を行うことが可能です。右図はMDCT検査の写真です。比較的丸い腫瘍(黄色の矢印)とその周囲にある点状の腫瘍の広がり(赤色の矢印)が分かります。腫瘍は触診で触れるよりも広く進展しています。

細胞診・組織診(針生検)

 画像検査で認められた異常が乳癌であるかどうかを確定する病理検査(顕微鏡による検査)です。外来にて専門医が超音波で腫瘍の位置を確認しながら乳房のしこりに針をさして行います。

マンモトーム

 近年マンモグラフィによる検診の普及に伴って、乳房に‘しこり’は触れないけれどマンモグラフィ検査で‘石灰化’が見つかることが増えています。‘石灰化’は触ることができず、乳房のどこにあるかわからないので通常の細胞診や組織診はできません。そこで見つかった石灰化が癌に伴うものか、癌ではない良性のものかを診断するために行う特殊な検査をマンモトームと呼びます。通常の切除生検などの手術による検査では乳房に3cm程度(またはそれ以上)の傷が残りますが、マンモトームの場合針を刺すだけの検査なので傷は残りません。近年普及してきた検査ですが、今のところ設備上限られた施設でしか行われていません。外来で実施可能で検査時間は1時間程度です。

マンモトームに使用する針

治療


 乳がんの治療には現在、手術・抗がん剤療法・ホルモン剤療法・放射線療法があり、これらの治療を組み合わせて行います。その選択は、病期の進行の程度(病期)によって異なります。早期の乳がんであれば手術のみで治療が終了することもありますし、進行した乳癌の場合は手術・抗がん剤・ホルモン剤・放射線治療の全てを行う場合もあります。

乳房の手術

 乳がんの手術には癌のある乳房を全部取る乳房切除術と癌のない正常な乳腺はできるだけ残す、乳房温存術(部分切除術)があります。当院では、MRIやMDCTなどによる術前の詳しい癌の広がりの検査に加えて、手術中に迅速病理診断を行うことで可能な限りきれいに乳房を温存することを目指しております。
 万が一、癌の広がりが広範囲であったために乳房を残せなかった場合も形成外科と合同で乳房再建術(乳房のふくらみを作ります)を積極的に行っております。(乳がん治療・再建センター) 手術の大きさによりますが、手術に必要な入院はだいたい4~7日間程度です。

ラジオ波熱凝固療法(RFA)

 乳がんの診断の進歩に伴い、比較的小さな癌が多く見つかるようになりました。精密な画像診断により腫瘍が周囲へ広がっていないと診断された2cmまでの癌に対して、乳房を切らずに腫瘍に針をさしてその針から出るラジオ波により腫瘍を焼いて消滅させる治療です。
 この方法では術創が残らず、乳房の変形も無く整容性は大変良好で痛みもほとんどありません。しかし、保険適応にはなっておりませんので一般的には行われておりません。当院ではその安全性と効果を検証するために限られた症例に対して行うことが可能です。手術翌日に退院可能です。

治療に使用するRFA針

わきのリンパの手術/センチネルリンパ節生検

ラジオアイソトープ法により抽出されたリンパ節

 わきのリンパ節を郭清することは乳がんの手術においては重要なことですが、リンパ節に転移をしていない患者においては不必要となります。そのために、リンパ節に転移をしているかどうか手術中に検査を行って転移がなければリンパ節を郭清しない方法があります。それをセンチネルリンパ節生検といいます。乳がんが一番転移しやすいリンパ節(センチネルリンパ節といいます)を1~3個程度だけを手術中に摘出してその場で病理検査を行い、転移の有無を明らかにします。
 リンパ節の標準的な郭清を省略することにより手術後に腕の浮腫(むくみ)や痛みが出る可能性がほとんどなくなります。RFA同様にこの治療は現在保険適応になっておりませんので、限られた施設でのみ可能な先進医療であり、当院において臨床試験という形で行うことができます。(当院も参加している試験の結果により、近年中には保険適応になる予定です)

内視鏡を使った手術

 乳房切除や乳房部分切除によって乳房の皮膚にできる傷をできるだけ目立たないようにするために、わきと乳輪に小さな傷を入れてそこから内視鏡と呼ばれるカメラ付の機材を挿入して、これを使って乳房を切除する方法です。

抗がん剤治療

 現在、乳癌に対して広く用いられている、非常に効果のある薬剤がいくつかあります。これらの抗がん剤を乳癌学会ガイドラインや海外の試験のデータに従って必要な症例に対し適確に行っております。また、いくつかの臨床試験グループに属して臨床試験といった形で日本では承認されていない新しい治療法もいち早く使用しております。また、近年話題となっている分子標的治療薬(ハーセプチンなど)も積極的に使用して良好な成績を得ています。
 これらの抗がん剤の投与は基本的に、腫瘍センターにおいて薬剤師や専門スタッフのサポートをうけながら、外来通院で行っております。そのため長期の入院治療は必要なく、日常の生活や仕事をしながらの治療が可能です。

ホルモン治療

 ホルモン療法は抗がん剤治療と違って内服薬による治療であり比較的副作用の少ない治療です。従来より使用されていた抗エストロゲン剤に加えて現在アロマターゼ阻害剤と呼ばれる比較的新しいホルモン剤を3剤を使用しております。また、特に閉経前の乳がんには卵巣機能抑制のためLH-RHアゴニスト(ゾラデックス・リュープリン)が有効です。ただし、ホルモン剤には感受性がありますので効果があるかどうかはホルモンレセプターの有無によって決まり、効果のある方だけお勧めします。ホルモン投与の開始時にはがん専門薬剤師から副作用等について詳しく説明があります。

放射線治療

 乳房温存療法(部分切除)の場合は残った乳房に再発をする可能性が高いといわれておりますので再発しないように手術後に放射線治療を行います。また、骨転移や頚部などのリンパ節に転移した場合治療目的でこの部位に放射線を当てることもあります。当院では「乳房温存術後の残存乳房照射」「リンパ節転移4個以上に対する胸壁照射」「再発乳がん特に骨転移に対する照射」があり、専門の放射線治療医と連携して放射線治療を行っております。

患者様の会 「アニマート」


 乳がん患者様およびその家族の方が集まって不安に思うことや疑問点あるいは良かったことなど自由にお話をする会がアニマートです。医療スタッフも参加して外来では忙しくてお答えできない質問にもお答えしています。自由に参加してください。(乳腺専門医、看護師、薬剤師、リハビリテーション部、臨床栄養部など)

「アニマート」Q&Aコーナー

特殊外来


 当院では、火曜日(午前・午後)と金曜日(午前)に下記の特殊外来を開設しております。完全予約制となっておりますので、乳がん治療・再建センターへお問い合わせ下さい。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群相談外来

 外来乳がんの中には「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」と呼ばれるものがあり、これらのがんでは遺伝要因が強く関与しており、全乳がんの5-10%と言われています。現在同定されている原因遺伝子は、BRCA1とBRCA2遺伝子で、生まれつきこれらの遺伝子に変異がある場合、高い確率で乳がんや卵巣がんを発症します。
 遺伝性乳がんの特徴は、40歳未満の若年期に発症する・両側の乳房にがんを発症する・近親者に乳がんや卵巣がん多いなどの特徴があります。
 この外来では専門スタッフが、遺伝性の病気や遺伝子検査についての説明や相談を行います。

がんと妊孕性(ニンヨウセイ)外来

 乳がんの治療では、抗がん剤やホルモン剤などの薬物療法が実施される場合がありますが、これらの治療は生殖細胞や女性ホルモン環境に影響を及ぼし、その後の妊孕性に問題を生じる場合があります。
 この外来では専門スタッフ・生殖医療専門医が、がん治療が生殖機能に及ぼす影響、妊孕性の温存に関する具体的な方法に関して説明と相談を行います。